1. はじめに
最近、歩くときに体が前に傾いてしまう、手足がこわばって洋服のボタンがうまく留められない、といった日常の困りごとはありませんか。
これらはパーキンソン病の代表的なサインかもしれません。パーキンソン病は、リハビリや生活の工夫によって、今持っている力を活かしながら自分らしい生活を長く続けることができる病気です。
今回は作業療法士(OT)の視点から、病気の概要や症状、生活を楽にする具体的な対応方法、そして姿勢の乱れを防ぐための簡単な運動療法をわかりやすく解説します。
2. パーキンソン病とは?脳のブレーキとアクセルの故障
パーキンソン病は、脳の中にある「ドパミン」という神経伝達物質が減ってしまうことで起こる病気です。
ドパミンは、脳から体に「動きなさい」という命令を伝える大切な物質です。これが不足すると、脳のブレーキとアクセルのコントロールがうまくできなくなり、自分の思い通りに体を動かすことが難しくなります。
高齢になるほど発症しやすくなりますが、決して珍しい病気ではありません。正しい知識を持って、早くからリハビリを始めることが大切です。
3. 知っておきたい「4大症状」と日常の困りごと
パーキンソン病には、運動に関する4つの代表的な症状があります。これらが日常生活にどのように影響するのか、作業療法士の視点で見ていきましょう。
① 手足のふるえ(静止時振戦)
じっとしているときに、手が細かくふるえる症状です。
- 生活での困りごと:シャツのボタンが留めにくい、お茶を飲むときにこぼれてしまう。
② 動きが小さく、遅くなる(無動・寡動)
全体的に動作がゆっくりになり、細かい作業が難しくなります。
- 生活での困りごと:ベッドでの寝返りがうてない、顔の筋肉が動きにくくなり表情が硬くなる(仮面様顔貌)。
③ 筋肉がこわばる(筋固縮)
筋肉が常に緊張して硬くなり、スムーズに動かなくなります。
- 生活での工夫が必要な理由:洋服の袖に腕を通すのが難しくなったり、体が突っ張って痛みの原因になったりします。
④ 体のバランスがとりにくくなる(姿勢反射障害)
体が傾いたときに、おっとっとと足を出して立て直すことが難しくなります。
- 生活での困りごと:小さな段差でつまずきやすくなります。また、一度足が出ると止まらなくなる「突進現象」が起きることもあります。

4. 作業療法士が教える!生活の中の「対応方法」
症状によって生活が不便に感じるときは、環境を工夫したり、少しのコツを意識したりすることで、驚くほど動作が楽になります。
一歩が出ない「すくみ足」には視覚と聴覚を使う
足が床に張り付いたようになって動けなくなる「すくみ足」は、脳へのアプローチで解決します。
- 目印を使う(視覚刺激):床にテープで線を引いたり、またぐ障害物があるイメージを持つと、脳が「またぐ」という別の命令を出すため、すんなり足が出やすくなります。
- リズムに乗る(聴覚刺激):「いち、に、いち、に」と声に出したり、手拍子やメトロノームの音に合わせたりすると、リズムに乗って一歩が踏み出せます。

着替えや食事の工夫
- 着替え:ボタンのない服や、マジックテープ、ジッパー式の前開きの服を選ぶと、手先がふるえても一人で着替えやすくなります。
- 食事:軽すぎるスプーンはふるえを強調してしまうため、少し重みのあるスプーンを選ぶと手が安定します。お皿の下にはシリコン製の滑り止めマットを敷くと、片手でも食事がしやすくなります。

5. 姿勢の乱れをリハビリ!今日からできる運動療法
パーキンソン病が進むと、体が前に傾く「前屈姿勢」や、左右に傾く姿勢になりやすくなります。これらを予防するために、お家で安全にできる3つの体操を紹介します。
1. 胸を開くストレッチ(座位・椅子に座って)
前かがみになりがちな背中をのばし、胸の筋肉をしっかりと広げる運動です。
- やり方: 椅子に深く腰掛け、背すじをのばします。両腕を斜め後ろ、または真横に大きく開きながら、胸を前に突き出すように張ります。
- 意識するポイント: 深呼吸をしながら、胸の前の筋肉が心地よくのばされているのを感じてください。

2. 胸を開くストレッチ(立位・立って行う)
立った状態で体幹(からだの軸)をのばし、姿勢をリセットします。
- やり方: 足を肩幅に開いて立ちます。両手を後ろで組み、そのまま斜め下へ引っ張るようにしながら胸を大きく開きます。
- 意識するポイント: 左右の肩甲骨(けんこうこつ)を中央にギュッと寄せるように意識すると、より効果的に胸が開きます。

3. 壁ペタ立ち(正しい姿勢の意識付け)
パーキンソン病特有の「前かがみ姿勢」を自分で自覚し、まっすぐな姿勢を体に覚え込ませる大切な練習です。
- やり方: 壁に背中を向けて立ち、体を壁に近づけます。
- チェックポイント: 以下の 4つのポイント が壁にしっかりと「ペタッ」とついているか確認します。
- 後頭部(頭の後ろ)
- 肩・背中(肩甲骨まわり)
- お尻
- かかと
- 注意点: 転倒を防ぐため、ふらつきが気になる場合はご家族が見守る中で行うか、近くにつかまれる手すりがある場所で行ってください。

6. おわりに
パーキンソン病のリハビリで一番大切なことは、焦らず「毎日少しずつ、無理なく続けること」です。調子が良い日もあれば、動きにくい日もあります。その日の体調に合わせて、できる範囲で行っていきましょう。
ひとりで抱え込まず、主治医や私たち作業療法士、理学療法士などの専門家をいつでも頼ってください。一緒に最適な生活の方法を見つけていきましょう。


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