「せっかく杖を買ったのに、なぜか歩きにくい…」
「杖を使い始めてから、かえって腰や肩が痛くなってきた」
そんなお悩みはありませんか?
実は、病院や施設で多くの患者様を見ていると、間違った長さや持ち方で杖を使っている方が少なくありません。体に合わない使い方を続けていると、歩きにくいだけでなく、関節を痛めたり、最悪の場合は転倒につながったりすることもあります。
今回は作業療法士(OT)の視点から、体に負担をかけない正しい杖の調整方法と、日常生活(玄関、トイレ、リビングなど)で安全に過ごすための具体的な工夫を分かりやすく解説します。
ご本人はもちろん、ご家族の歩行をサポートしている方もぜひ参考にしてみてください。
1. 自分の体に合わせる!正しい杖の長さ調整(3つの基準)
杖を合わせるときは、必ず「普段履いている靴」を履いた状態で行いましょう。作業療法士が臨床で実際に使う、一番おすすめの合わせ方をご紹介します。
一番おすすめ!「手首の骨」に合わせる方法
腕をまっすぐ下ろしたとき、手首の親指側にある、ボコッとした骨(橈骨茎状突起)の高さに杖のグリップ(持ち手)を合わせます。
- 💡 OTのワンポイント解説
ここを基準にすると、杖を握ったときに肘が自然と約30度曲がります。この「少し曲がった角度」が、二の腕の筋肉に一番力が入りやすく、体重をしっかり支えられるベストな位置なのです。

その他の目安
- 杖の先を「足の小指の外側15cm」に立てたとき、肘が約30度曲がる高さ
- 太ももの付け根にある、一番出っ張った骨(大転子)の高さ
- 簡易的な計算式:
身長 ÷ 2 + 3cm(例:身長150cmなら78cm)
❌ こんな調整はNG!
- 高すぎる杖:肩が上がってしまい、肩こりや手首の痛みの原因になります。
- 低すぎる杖:前かがみ(猫背)になり、腰に大きな負担がかかります。
2. どっちの手で持つ?正しい「持ち方」と「歩き方」
杖は「悪い足」の【反対側の手】で持つ
よく勘違いされやすいのですが、杖は「痛む足・麻痺がある足」とは【反対の手】で持ちます。
- 例:右足が痛いなら、杖は左手で持ちます。
同じ側で持ってしまうと、悪い足に全体重がかかってしまい、痛みをかばうことができません。反対側で持つことで、杖が悪い足の代わりに体重を支えてくれます。
平地での正しい歩き方(3動作歩行)
歩くときは、次の3つのリズムを意識しましょう。
- 「① 杖」 を前に出す
- 「② 悪い方の足」 を出す(杖と足で体重を支える)
- 「③ 良い方の足」 を出す(悪い足を追い越すように)
「杖 ➡️ 悪い足 ➡️ 良い足」のリズムを口ずさみながら歩くと、自然とバランスが整います。
3. 【OT視点】日常生活のシーン別・気をつけたい動作と工夫
自宅や屋外には、ヒヤリとする場面がたくさんあります。生活場面での「あるある」と解決策をまとめました。
① 玄関(一番転びやすい場所)
危険な動作:立ったまま杖に頼って靴を脱ぎ履きする。
OTのアドバイス:
玄関での靴の脱ぎ履きは、必ず椅子やベンチに座って行いましょう。
また、玄関の段差(上がり框)を昇るときは、「①杖 ➡️ ②良い足(元気な足) ➡️ ③悪い足」の順です。昇る前に、杖をしっかり上の段の奥に突くのがポイントです。
逆に降りる場合は、①杖 ➡️ ③悪い足➡️ ②良い足(元気な足)です。
② トイレ(狭い空間での方向転換)
危険な動作:座るときや立つときに、杖に体重をかけようとする。
OTのアドバイス:
杖は歩くための道具です。立ち座りのときは杖に頼らず、壁にかけるか手すりに持ち替え、「両手をしっかり手すりや自分の膝」に置いて行いましょう。狭いトイレ内での方向転換は足がもつれやすいため、小刻みに足を動かすよう意識してください。
③ リビング(ついやってしまう「手すり代わり」)
危険な動作:自宅内だからと杖を使わず、動く家具やふすまを触りながら歩く(伝い歩き)。
OTのアドバイス:
キャスター付きの椅子やふすまは、体重をかけると動いてしまうため非常に危険です。面倒くさがらずに自宅内でも杖を使うか、よく通る動線には固定された手すりを設置しましょう。
④ お買い物やお散歩(屋外でのヒヤリハット)
危険な動作:下(足元)ばかり見て歩く。荷物を杖と同じ手で持つ。
OTのアドバイス:
道路の溝(グレーチングの網目)やマンホールは、杖の先がハマったり雨の日に滑ったりします。目線は少し上げ、2〜3歩先を見る癖をつけましょう。荷物は「杖を持っていない側の手」で持つか、リュックサックを使って両手をフリーにするのが一番安全です。
4. ご家族の方へ:見守りと安全チェックのポイント
大切なご家族が安全に杖を使うために、周りの方も以下の2点をぜひチェックしてあげてください。
- 声かけは「ゆっくりね」
「早く歩きなさい」と急かすと、焦って足がすくんだりリズムが崩れたりします。「ゆっくりでいいよ」「イチ、ニ、サンのリズムだね」と優しく声をかけてあげてください。 - 先ゴムのすり減りチェック(重要!)
杖の底についている「先ゴム」は、車のタイヤと同じです。すり減ったり硬くなったりすると、雨の日やフローリングでツルッと滑ってしまいます。半年に1回は底面を確認し、すり減っていたら交換しましょう(ホームセンターや介護ショップで購入できます)。
まとめ:杖は「行きたい場所」へ行くための大切な相棒
杖は、ただの歩行補助の道具ではありません。使う人の「お孫さんと買い物に行きたい」「安心して散歩に行きたい」というこれからの楽しみや活動を広げてくれる大切な相棒です。
もし、「どうしても上手く歩けない」「本当にこの高さで合っているか不安」という場合は、自己判断せず、担当のケアマネジャーや、訪問・通所リハビリの作業療法士(OT)、理学療法士(PT)に気軽に相談してくださいね。
正しい使い方をマスターして、毎日の移動をもっと楽に、もっと安心なものにしていきましょう!


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