「さっき伝えたことを、もう忘れている」
「何度も同じ質問を繰り返すようになった」
親のそんな姿を見て、「もしかして認知症の始まり…?」と不安になっていませんか?
こんにちは。作業療法士のノッポマンです。
リハビリの専門家として、病気や障がいがあっても、その人らしくイキイキとした毎日(=作業)を送れるようサポートする仕事をしています。
私は普段、訪問リハビリで多くの高齢者の方やご家族とお会いしていますが、一番よく耳にするのが「最近、物忘れが多くなってね…」というお悩みです。
それだけ、歳を重ねるにつれて物忘れが気になり始める方は多いものです。決してあなたのご家族だけではありませんから、まずは安心してくださいね。
親の物忘れが始まると、ご家族は「早くなんとかしなきゃ」と焦ってしまいがちです。しかし、実はリハビリの現場から見ると、家族の「ちょっとした関わり方のコツ」と、本人が「無理なく続けられる生活の工夫」次第で、脳の元気を保ち、進行を緩やかにすることは十分に可能です。
今回は、物忘れが気になり始めた親御さんへの「家族のアプローチ」と「本人自身の対応方法」を、作業療法士の視点から具体的にお伝えします。
1. 家族のアプローチ:脳の元気を奪わない3つのコツ
物忘れが始まると、家族は良かれと思って「先回り」してしまいがちです。しかし、脳を活性化させるためには、以下の3つの関わり方がとても大切になります。
① 「正論で責めない」
「さっきも言ったでしょ!」「どうして忘れるの?」という言葉は、最も避けたい声かけです。
本人はサボっているわけではなく、本当に記憶が消えてしまっています。責められると「自分はダメになってしまった」と深く傷つき、自信をなくして引きこもってしまいます。これが一番の脳の大敵です。
忘れているときは、「あぁ、そうだったね。〇〇だよ」と、初めて聞かれたかのようにサラッと笑顔で返すのが一番の正解です。

② 「仕事を奪わない」で見守る
料理や掃除、洗濯物の片付けなど、時間がかかるからと家族が全て代わってしまっていませんか?
実は、毎日の家事こそが最高の脳トレです。「メニューを考える」「段取りを組む」「手を動かす」という一連の動作は、脳のあちこちをフル活用します。
大人が子どもを見守るように、「時間はかかっても、本人ができるところは手を出さずに見守る」こと。少し手助けが必要なときは、「じゃあ、大根の皮むきだけお願いね」と、最後の美味しいところ(達成感を感じられるステップ)を任せるのがコツです。

③ 「ありがとう」で役割を作る
人間は、誰かの役に立っていると感じるときに、脳からやる気を出すホルモンが分泌されます。
「新聞を取ってくる」「観葉植物に水をやる」「お箸を並べる」など、小さなことで構いません。毎日固定の役割(仕事)をお願いしてみましょう。
そして、やってくれたら「いつも助かるよ、ありがとう」と必ず伝えてください。その一言が、本人の自立への意欲を大きく支えます。

2. 本人へのアプローチ:プライドを傷つけずに伝える工夫
物忘れに一番戸惑い、不安を感じているのはご本人です。「物忘れ対策をして」と直接言うと、プライドが傷つき拒絶されてしまうこともあります。
ご本人には、「年齢とともに誰もが通る道だから、一緒に生活をラクにしよう」というスタンスで、以下の具体的な工夫を提案してみましょう。
① 「覚える」のをやめて「頼る」仕組みを作る
「忘れないように頑張る」のは、脳にとって大きなストレスです。これからは、脳のメモリを節約するために「外部の道具」に頼るよう勧めてみましょう。
- カレンダーの一元化: 予定はリビングの大きなカレンダー1箇所にだけ書く。
- ホワイトボードの活用: 「今日の予定」「買い物リスト」を目につく場所に書いておく。
ポイントは、家族が勝手に用意するのではなく、「最近私も物忘れが多くてさ、これ一緒に使わない?」と、巻き込む形で提案することです。

② 「5つの行動」を毎日のルーティンにする
ご本人が自主的にできる、脳を活性化させる生活習慣です。
- 散歩(デュアルタスク): ただ歩くだけでなく、「あのお花、綺麗だな」「今日は風が冷たいね」と、五感で景色を楽しみながら歩くと脳に刺激がいきます。
- 日記やメモ書き: 夜、その日にあったことを3つだけ思い出す「3行日記」は、記憶を呼び起こす素晴らしいトレーニングになります。
- 趣味の継続: 手先を動かす趣味(手芸、園芸、日曜大工、パズルなど)は脳の血流をアップさせます。
- おしゃべり: 近所の人や友人と話すことは、相手の言葉を理解して返すという高度な脳の運動です。
- 水分補給: 高齢者は脱水になりがちです。水分が足りないと一時的に認知機能が落ちることがあるため、こまめな水分補給を促しましょう。

3. まとめ:完璧を目指さず、笑顔の時間を増やす
親の物忘れが進むと、「なんとか元に戻さなきゃ」と肩に力が入ってしまうかもしれません。
しかし、作業療法士として多くの患者さまとご家族を見てきて確信しているのは、「家族がピリピリして完璧な脳トレをさせるより、お互いが笑顔でリラックスして過ごす方が、ずっと認知症の進行が緩やかになる」ということです。
多少の物忘れや失敗があっても、「まぁ、生きてるからいっか!」と笑い飛ばせるくらいの心の余裕を、どうか大切にしてください。
もし、「最近ちょっと物忘れのスピードが早いな」「関わり方に疲れてしまったな」と感じたら、一人で抱え込まずに、地域の包括支援センターや、私たち作業療法士などの専門家にいつでも頼ってくださいね。
今日からの少しの工夫で、親御さんとの温かい生活が長く続くことを応援しています。


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