ご自宅で高齢のご家族を介護されている方の中で、「ゴロゴロと音がして苦しそう」「痰がうまく出せなくて心配」というお悩みを抱えている方は少なくありません。
痰がからむと、本人が苦しいだけでなく、肺炎などの大きな病気につながることもあります。そこで今回は、作業療法士の視点から、痰が詰まる原因や、自宅でできる「排痰法(はいたんほう:痰を出す方法)」の基本、そして知っておくべき注意点を分かりやすく解説します。
1. なぜ痰が詰まるの?主な原因
健康なときは無意識に出せる痰ですが、病気や加齢によっていくつかの原因が重なると、自力で出すのが難しくなります。
- 咳き込む力の低下: 肺の筋肉や体力が落ちると、痰を外へ押し出す強い咳ができなくなります。
- 水分不足・乾燥: 体内の水分が足りなかったり、部屋が乾燥していたりすると、痰がドロドロに硬くなって粘り気が増し、張り付いて取れにくくなります。
- 寝たきりの状態: 長時間同じ姿勢で寝ていると、重力の影響で痰が肺の奥の一箇所に溜まりやすくなります。

2. 痰が詰まるとどうなる?(予後予測と注意すべきサイン)
痰の詰まりをそのままにしておくと、徐々に空気の通り道(気道)が塞がれ、最悪の場合は以下のようなリスク(予後)に繋がります。
- 吸入性肺炎(誤嚥性肺炎): 痰に含まれる細菌が肺に留まることで、肺炎を引き起こします。
- 無気肺(むきはい): 痰が完全に気道を塞ぎ、肺の一部に空気が行かなくなって潰れてしまう状態です。
- 低酸素状態: 呼吸が浅くなり、体に十分な酸素が行き渡らなくなります。
⚠️ すぐに医療機関へ連絡すべきサイン
痰のゴロゴロが消えないことに加え、**「熱がある」「顔色や唇の色が悪い(チアノーゼ)」「呼吸が異常に早い・ハアハアしている」「呼びかけへの反応が薄い」**といった症状がある場合は、すぐに訪問看護師や主治医に連絡、または救急車を検討してください。

3. ご家族でできる「安全な排痰のサポート(手技)」
自宅で無理なく実践できる、痰を出しやすくするための基本的なアプローチです。
※実践する際は、重大な事故を防ぐため、必ず事前に訪問看護師や理学療法士・作業療法士に直接指導を受けてから行ってください。
① 体位排痰法(姿勢の工夫)
重力を利用して、肺の奥にある痰をのどの方へ移動させる方法です。
- やり方: ずっと仰向けで寝ている場合は、定期的に横向き(側臥位)になってもらいます。例えば、右の肺に痰が溜まっている(音がする)場合は、左側を下にして寝ると、重力で痰が真ん中に集まりやすくなります。

② 水分補給と加湿(痰を柔らかくする)
硬い痰はどれだけ頑張っても出ません。まずは柔らかくすることが最優先です。
- やり方: お医者さんから水分制限を言われていなければ、こまめに水分を摂ってもらいます。また、部屋の湿度を50〜60%に保つ、ネブライザー(吸入器)を使用するなども効果的です。

③ ハフィング(強い咳ができない方向け)
「コンコン!」と強く咳き込むのが難しい場合におすすめの呼吸法です。
- やり方: 口を軽く開け、お腹に少し力を入れながら「ハッ!ハッ!」と息を強く吐き出してもらいます。ガラスを息で曇らせるようなイメージです。これを行うことで、喉を痛めずに痰を押し上げることができます。

④ スクイージング(呼吸に合わせた胸の圧迫)
本人の呼吸(息を吐くタイミング)に合わせて、胸やお腹をやさしく圧迫し、痰を空気と一緒に押し出す手技です。
- やり方: 本人が息を「ふうっ」と吐き出すタイミングに合わせて、手のひら全体で胸を斜め下(のどの方)に向かって優しく押します。息を吸うときは手を緩めます。
- 注意点: 力加減やタイミングが難しい手技です。高齢の方は骨がもろくなっていることが多く、無理な力で行うと肋骨(ろっこつ)を折ってしまう危険があります。必ず専門家から安全な力加減を学んでから行ってください。
⚠️ 注意:昔ながらの「背中を叩く(タッピング)」は要注意!
昔はよく背中をポンポンと叩いて痰を出していましたが、骨折のリスクや、逆に痰を奥に押し込んでしまうリスクがあるため、自己判断で強く叩くのは避けましょう。

4. まとめ:専門家と一緒に取り組みましょう
排痰は、ご家族だけで抱え込まずに、訪問看護師やリハビリ職(PT・OT・ST)、主治医などの専門家と連携して行うことが大切です。
私たち作業療法士は、スクイージングなどの手技だけでなく、「ベッド上での楽なクッションの当て方(ポジショニング)」や、「お体をリラックスさせて呼吸を楽にするアプローチ」、「お食事のときにむせないための工夫」など、生活全体のサポートを考えています。少しでも気になることがあれば、いつでもお気軽に相談してくださいね。


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