「最近、お父さん(お母さん)の足腰が弱ってきた気がする……」
「立ち上がるのが大変そうで、何か手伝えることはないかしら?」
ご自身や大切なご家族が「腎臓病」と診断されると、これからの生活にたくさんの不安が生まれますよね。食事の塩分を気にしたり、お薬が増えたりする中で、「身体が弱っていかないか」と心配されるご家族はとても多いです。
実は、ひと昔前までは「腎臓病の人はとにかく安静に」と言われていました。しかし今の医学では、「無理のない範囲でしっかり動いた方が、腎臓にも身体にも良い」ということが分かっています!
今回は、私たち作業療法士(生活のリハビリ専門職)の視点から、腎臓病による筋力低下の原因と、ご自宅で安全に続けられる「生活リハビリ」のコツを分かりやすくお伝えします。
1. なぜ腎臓病になると足腰の筋力が低下するのか?
「腎臓の病気なのに、どうして足腰が弱くなるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。それには、腎臓病ならではの明確な理由があります。
原因①:腎機能低下による「全身のだるさ(腎性貧血)」
腎臓は、血液(赤血球)を作るのを応援するホルモンを出しています。そのため、腎臓の働きが弱くなると血液が薄くなり、「腎性貧血」という状態になります。
これにより、全身に十分な酸素が行き渡らなくなり、「とにかく疲れやすい」「いつも身体がだるい」と感じるようになります。だるくて動く回数が減ることで、さらに筋力が落ちるという悪循環に陥りやすいのです。
原因②:運動不足による筋肉量の減少(サルコペニア)
「病気だから安静にしていなきゃ」と過度に活動を控えてしまうと、筋肉はあっという間に落ちてしまいます。このように、病気や運動不足によって全身の筋肉量が減り、身体の機能が落ちてしまうことを「サルコペニア」と呼びます。特に体を支える太ももやふくらはぎの筋肉は、使わないとすぐに細くなってしまいます。
見逃さないで!家族が気づきたい筋力低下のサイン
ご本人は「ただ疲れているだけ」と思っていても、日常生活の中に筋肉が落ちてきたサインが隠れています。
- 立ち上がる時に、手すりや机に強くしがみつくようになった
- 歩くスピードが以前より明らかに遅くなった
- ちょっとした段差でつまずくことが増えた
- 「だるい」と言って、家の中で横になる時間が増えた
こうしたサインに気づいたら、安静にしすぎるのを防ぎ、少しずつ動く工夫を始めるタイミングです。
2. 慢性腎臓病(CKD)のステージと症状の目安
病院の検査で「ステージ」や「ステージG〇」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。腎臓病は、進行度によってG1(正常)からG5(末期腎不全)までの5つのステージに分かれています。
初期(ステージG1〜G3)は自覚症状がほとんどない
腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、初期の段階では痛くも痒くもなく、自覚症状がほとんどありません。そのため、健康診断の血液検査(eGFRの数値など)や尿検査で初めて指摘されるケースがほとんどです。
進行(ステージG4〜G5)すると現れる「だるさ」と「むくみ」
ステージが進んでくると、血液中の老廃物や余分な水分を外に出せなくなり、以下のような症状がはっきりと現れます。
- 全身の強い倦怠感(だるさ)
- 足や顔のむくみ(靴がキツくなる、靴下の跡が消えないなど)
- 息切れや食欲の低下
このステージでは、将来的に人工透析(血液を機械でキレイにする治療)が必要になるリスクや、心臓・脳の病気のリスクが高まるため、より慎重な体調管理が必要になります。だからこそ、日々の生活を維持するためのリハビリが重要になってくるのです。
3. 静かに過ごすより動いた方がいい!運動療法がもたらす4つの効果
「だるそうなのに運動をさせて大丈夫?」と心配になりますよね。しかし現在では、適切な運動(運動療法)を行うことで、以下のようなたくさんのメリットがあることが医学的に証明されています。
- 効果①:「だるさ」や「疲れやすさ」が軽くなる
適度な運動は血行を良くし、透析を受けられている方を含め、全身の倦怠感を和らげる効果があります。 - 効果②:自力でトイレや移動ができる生活(ADL)が守られる
足腰の筋力が維持されることで、「自分の力で着替える」「トイレに行く」「買い物に行く」といった、当たり前の生活を長く続けることができます。 - 効果③:血圧や血糖値が落ち着き、腎臓への負担を減らせる
運動によって血管が広がり、血圧や血糖値のコントロールがしやすくなります。これが間接的に、腎臓のこれ以上の悪化を防ぐことにつながります。 - 効果④:免疫機能の改善や、気持ちが前向きになる効果も
運動は体内の慢性的な炎症を抑え、低下した免疫機能を整えるサポートをします。また、外の空気を吸うことで気分転換になり、夜もよく眠れるようになります。
4. 【作業療法士直伝】自宅でできる優しい運動療法メニュー
それでは、ご自宅で安全にできる具体的な運動メニューをご紹介します。
⚠️ 【重要】始める前に必ずかかりつけ医へ確認を!
心臓の持病がある方や、ステージによっては運動に制限が必要な場合もあります。始める前には必ず「家で軽いウォーキングや筋トレをしてもいいですか?」と主治医に確認してください。
① まずはここから!「おしゃべりウォーキング」
- やり方:いつもより少しだけ歩幅を広くして歩きます。
- ポイント:「ちょっと息が弾むけれど、笑顔でおしゃべりができるくらいのペース」がベストです。ハァハァと息が切れるほど頑張る必要はありません。
- 目安:まずは今より「5分〜10分長く歩く」ことから始め、慣れてきたら1日20〜30分、週に3回ほどを目指しましょう。

② 息を止めずに行う「足腰しっかり筋トレ」
血圧が上がりすぎないよう、「数を声に出して数えながら(息を止めずに)」行うのがコツです。2〜3日に1回(1日おき)のペースで行いましょう。
椅子の立ち座り(スクワット)
椅子に浅く腰かけ、足は肩幅に開きます。
手は胸の前でクロスするか、膝の上に置きます。
「1、2、3、4」で立ち上がり、「5、6、7、8」でゆっくり座ります。
まずは5回〜10回を目標に、無理のない範囲で繰り返します。

机につかまって「片足立ち」
転倒を防ぐために、必ずしっかりした机や手すりにつかまります。
片足を少し(床から数センチでOK)浮かせ、そのまま1分間キープします。
左右交互に行います。これだけで、歩く時のバランス能力が鍛えられ、転倒予防になります。

5. 特別な運動じゃなくてOK!家族で取り組む「生活リハビリ」のコツ
「さあ、運動の時間だよ!」と意気込んで誘うと、ご本人もプレッシャーに感じてしまうことがあります。
作業療法士が一番大切にしているのは、特別な訓練だけでなく、「日々の生活そのものをリハビリ(生活療法)に変えること」です。
日々の家事や外出(軽強度身体活動)が最高の動機づけ
実は、「一緒に近くのスーパーまで歩いて買い物に行く」「お皿洗いや洗濯物たたみを少し手伝ってもらう」といった、日常のちょっとした家事や外出も、腎臓病の進行予防にとても効果があるというデータがあります。まとまった運動ができなくても、家の中でこまめに動くこと自体が立派なリハビリなのです。
ご家族からのおすすめの声かけとサポート方法
ご本人が動きやすくなるよう、ご家族の方はぜひ以下のような「きっかけ作り」をしてみてください。
- 「ちょっとお皿拭くの手伝ってくれる?」と役割をお願いする
- 「天気がいいから、あそこの自動販売機まで一緒に散歩がてら歩こう」と誘う
- 「いつもより立ち上がるのがスムーズだね!」と、動けたことを一緒に喜ぶ
ご家族の「ありがとう」や「助かるよ」という言葉は、ご本人が動くための何よりのエネルギーになります。
6. まとめ:完璧じゃなくて大丈夫。一歩ずつ「あなたらしい生活」へ
腎臓病の療養生活は、食べたいものを我慢したり、毎日たくさんのお薬を飲んだりと、大変なことが多いですよね。だからこそ、運動は「やらされる辛いもの」ではなく、「毎日を元気に、あなたらしく過ごすための前向きな手段」として捉えていただけたら嬉しいです。
毎日完璧にこなす必要はありません。調子が悪い日はしっかり休み、できる日に少しだけ動く。その積み重ねが、大切な足腰と身体を守る裏ワザです。
私たち作業療法士は、患者さんとご家族が、住み慣れた家で「やりたいこと」をいつまでも続けられるよう、全力で応援しています。まずは明日、いつもより一回多く椅子から立ち上がってみることから、一緒に始めてみませんか?


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